標題:
それが何か、今は分からない
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作者:
mtyn8fhgidt
時間:
2014-6-30 21:46
標題:
それが何か、今は分からない
第三話:ある週末
午前六時。坂丘高校のグラウンドに、第二小隊のSDF隊員十九名が集合していた。全員、OD色の戦闘服の上からボディアーマー、膝・肘当て(ニー・エルボーパッド)を装着し、フリッツ型ヘルメットにインカム、レッグホルスターにM92F、手にはMP5サブマシンガンという典型的な近接戦闘装備だった。一見、警察の銃器対策部隊やSATに見えるが、ボディアーマーの背中と胸に『SDF』とゴシック体で表記されているため、一般人に見間違えられる可能性はあまりない。 今日は、校舎を用いた室内戦闘訓練だった。銃とボディアーマー、ヘルメットには専用の訓練装置(バトラー)が装着され、銃からのレーザー照射が当たるとブザーが鳴り、死亡。バトラーは陸上自衛隊で使用されている物を基にして、より大量生産できるようにした廉価品だった。全国のSDFで使用されている。
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『こちら訓練本部(イーグル・リーダー)。これより訓練を開始する』 第二小隊の面々はゴーグルをかけた。斉木が力強く号令をかける。「出動!」 四、五人ずつ固まって前進するスタックの隊形をとり、MP5を構えつつ校舎へ走る。当然、窓から銃撃される可能性もあるわけで、隊員は各自の死角(デッドアングル)を補いつつMP5を構える。 校舎の出入り口に着いた。 斉木がハンドサインで突入を指示する。 先頭の隊員がドアを開け、一気に十人ほどが校舎に入った。孝や斉木を含む残りは突入路の確保を待つ。『二人制圧。クリア』 最初に突入した岡田清二(おかだ せいじ)二等学曹が告げた。
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「じゃあ、コンビニ行って来ます」「うぃーす」「行ってらっしゃい」 孝はSDF棟を出て、校門に向かった。午後三時半。 グラウンドでは野球部やサッカー部の掛け声がひっきりなしに聞こえ、校舎からは吹奏楽部の楽器の音が鳴っている。部活ではどの生徒も、目標に向かい、努力している。孝はそれが、うらやましく感じられる時があった。おれは一生に一度の高校生活の時間の多くを、こんな戦闘と訓練に費やして後悔しないか、と。もちろん、この学校とその生徒を守ることに意義があるのは分かる。だが、孝の中には腑に落ちない何かがあった。それが何か、今は分からない。 コンビニで自分のざるそばと岡田のウイダーを買った孝は、SDF棟に向かうグラウンド脇のランニングコースを歩いていた。すると、前方から一人の生徒が走ってきた。下はOD(オリーブドラブ)色の作業着に半長靴(ブーツ)、上は白いTシャツ。SDFの隊員だった。自主トレか? などと思って見ていると、その隊員が女子であることに気づいた。女子生徒のSDF隊員はこの学校には、確か五人しかいないはずだ。全体の五、六パーセントくらいだ。 すれ違うとき、その女子と目が合った。見覚えのある顔だった。確か、二人いる一年生の女子SDF隊員の一人だ。クラスは違うので、名前は知らない。 ただでさえSDF隊員は訓練で走り込むのに、自主トレしてまで走るのか。孝はちょっと疑問を持った。 午後三時五十六分。孝はSDF待機室に戻り、巡回の担当が書き出されたホワイトボードを見た。四時三十分からの巡回の場所には《巡回ルートA》とマジックで書かれ、その横に《緒方》と《進藤》のネームプレートが張ってある。巡回は、二人一組のバディシステムで行われる。バディは小隊関係なく組み合わされ、毎回変わる。 進藤……知らない名前だ。 時間があるので、孝はざるそばを食べることにした。いまSDF待機室にいるのは、孝と、将棋に興じている隊員が二人、テレビを見ているのと読書中の隊員が一人ずつ、合計五人のみだ。待機室は、二十人の隊員が一斉にブリーフィングできる広さと座席がある。待機中にくつろげるよう、テレビ、書籍、簡易ゲームなどが置いてあった。飲み物の自動販売機もある。奥の方にあるドアは、武器庫につながっている。 待機室の隣にはもうひとつ似たような部屋がある。SST室だ。SST隊員のみが入室を許される部屋で、SSTの銃器などはそちらに分けて管理されている。 ざるそばを食べ終えた孝は、更衣室に行き、制服から戦闘服に着替え、プロテクターを装着した。基本的に、巡回は戦闘時と同じ装備で行うことになっている。サブマシンガンも携行する。 更衣室から出ると、ちょうど岡田と堺(さかい)士長が巡回から戻ってきたところだった。「お疲れ様です。これ、頼まれてたやつです」 孝はウイダーを渡した。「おお、サンキューな。緒方は今から巡回か」「ええ」「外はクソ暑いぞ。水分補給しといた方がいいぜ」「分かりました」 三十分後、孝の巡回は終了した。バディは二年の進藤正平(しょうへい)という、第一小隊の一等学曹だった。巡回中に話して知ったが、午前中の戦闘訓練で孝を倒したのは進藤だったらしい。ちなみに第一小隊は、その後の対第三小隊戦でも勝利している。 孝はSDF待機室に戻ったが、次の巡回まですることがないので図書室で自習した。そしてまた巡回……。そういった感じで、警備当直の午後は過ぎていった。 日が暮れてからも、当然ローテーションは止まることなく回ってくる。 そして、翌朝五時。この日の当直隊員たちが集合し、巡回警備を引き継いだ。「あー、眠い……」 孝は呟きながら、SDF棟を後にした。合計三時間の仮眠をとったと言っても、それは分割された睡眠なので、あまり寝た気がしなかった。 部屋に帰ってから、もうひと眠りするか……。※ 孝は、ケータイの着信音で目を覚ました。ベッドから起き上がり、画面表示も見ずに通話ボタンを押す。「もしもし」『緒方、時間あるか?』 山崎の声だ。「何だよ、朝っぱらから……」『朝? なに言ってんだよ。寝ぼけてんのかー? 時計見てみな』 孝は目を擦りながら壁掛け時計を見た。まだ午前八時くらいだろうと思っていたら、午後一時だった。「もう昼……!」『当たり前だ。……で本題だが、駅前で遊ぼうぜ』「……分かったよ。場所は?」『じゃあ駅の西口に三十分後』「了解。じゃあな」 駅までは、歩いて十五分。孝は顔を洗い、服を着替え、一時二十三分にマンションを出た。 西口には、すでに山崎がいた。「来たな、緒方」「……で、どこに行くんだ?」「そうだな。とりあえずボーリングでも行こう。この前のリベンジだ」 一ヵ月ほど前、ボーリングで山崎に圧勝してしまっていた。 ボーリング場の受付に行くと、日曜というだけあって、混雑していた。突然、山崎が「ん?」 と目を細めた。「どうした?」「あ、あれって……」 山崎は、すでに受付に並んでいる二人組を指差した。ポニーテールと、肩までの髪。杏子と美菜だった。「あ、緒方くん」 こちらに気づいた美菜が言った。杏子もこちらを振り返り、 「……緒方はともかく、なんであんたがここにいるのよ」 とため息混じりに呟いた。「おれが緒方とボーリングに来ることがそんなに不自然なことかよ!?」 と山崎。「噂は聞いたわよ。山崎、前にボーリングで緒方にコテンパンに負けたんですって?」 ニヤニヤしながら言う杏子。 そんな話題性のない噂話があるか。さしずめ盗み聴きだな。孝は呆れて、ため息をつく。「お、緒方が強すぎたんだよ! 仕方ねえだろ!」 憤る山崎。 その返事はカッコ悪いぞ……。それにおれ、強いってほどじゃないし。ボーリング。「この二人、なんでこんなに仲悪いのかな?」 と美菜。「さあ」 と孝は肩をすくめる。 山崎は続ける。「ま、おれに言わせりゃ、おまえなんか敵じゃねえけど」 今度は杏子が頭に血が昇ってきたようだ。「……口先だけじゃないでしょうね? あたしと勝負しなさい!」「ああ、望むところだ! その代わり負けたら奢れよ」「いいわよ、寿司でも焼肉でも奢ってやろうじゃないの。でも負けたらあんたが奢りなさいよ」 寿司? 焼肉? それはいいな。「杏子ちゃん……!」 美菜はさすがに不安そうな表情になった。※ 四時間後。「お、緒方ぁ」 今にも泣き出しそうな顔の山崎が言う。「知らん。自業自得だろうが」 四人は、ボーリング場近くの回転寿司にいた。「おいしいわね、美菜」 中トロを頬張りながら、満足げな杏子が言った。「うん。でもなんか悪いね、奢ってもらっちゃって」 言いつつも、美菜は控えめにかっぱ巻きを食べている。「え? 内田の分も奢るなんて聞いてないよ!」 山崎は本当に泣きかけている。「負けたのに文句を言わない!」 杏子はどこまでも意地が悪い。……などと思いつつ、孝はネギトロを取り、味噌汁を注文した。「緒方、お前まで食う気か!」「心配するな。おれは自分で支払う」「良かった……。ていうかそれでも、二人分も払えるわけないだろ!」 無論、山崎は一口も食べていない。「え? そうなの? あんたビンボーねぇ」 とさらに切り込む杏子。 拳を握りなから、山崎は何か言おうと口をパクパクさせてから、肩をがっくりとうなだれた。http://www.gestoriademarketing.com「よし。行くぞ」 斉木の声で、残りの九人も校舎に突入した。通路に二人の隊員が悔しそうに座っている。《死亡》した第一小隊の隊員だ。最初に突入した隊員たちはすでに二階に上がっていて、姿が見えない。上からもブザーの音が響き始めた。『二階廊下で接敵、交戦中!』『二階は一班に任せろ! 三班は三階に向かえ』『了解(ラジャー)』『一階、クリアリング中……!』『二班、KIA一名』 KIAはKilled In Action、戦闘中に殺されたという意だが、実戦では滅多にない。むしろ頻繁にあるのは、IIA(Injured In Action)、戦闘中の負傷である。 この報告はバトラーのブザーが鳴った本人、つまり”死んだ”隊員が自分で行うので、訓練だけの言い回しだった。ロンシャン トート 孝の所属する四班は、一階生徒玄関のクリアリングに向かった。孝は班長である学曹長の指示に従い、ロッカーの陰でMP5を構える。 ビー、と思ったより大きい音が響き、バトラーが振動した。「あ……!」 振り向くと背後のベンチの奥で、第一小隊の隊員がこちらにMP5の銃口を向けているのが見えた。あっけなかった。 死んだら、報告。「四班、KIA一名」 そうマイクに吹き込み、その場にうつ伏せになった。 すでに戦場は二階や三階に移ったようだ。一階は静まり返ってしまった。『三班、さらにKIA一名。これで全滅です』『二班、人手不足だ! 誰か回してくれ』
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すると、倉田の声がイヤホンから流れた。『イーグル・リーダーより全隊員(オールハンド)。コード四。突入部隊は全滅した』 その後、第二小隊の隊員たちは第一小隊と第三小隊の訓練を見学し、訓練後の片付けをし、午後三時前に解散となった。しかし、今日は孝は夜間警備の当直だったため、他の当直隊員たちと学校に残った。SDF棟で待機だ。「そういえば昼メシまだだったな。食堂行くヤツいるか?」 警備当直のSDF隊員たちが集うSDF待機室で、二年の岡田が言った。身長が百八十センチメートルで、肩幅もそれなりにある大柄な隊員である。中学時代は柔道部で大活躍していたとか。
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「岡田さん、今日は土曜で食堂閉まってますよ」 誰かの適確なツッコミが飛ぶ。「しまった。今から巡回で外出できないんだよなぁ」 警備担当のSDF隊員は待機するだけではなく、学校敷地内の巡回もしなければならない。 孝は昼食を準備していなかった。孝の巡回までは一時間以上ある。「あ、おれ今からコンビニ行きますけど。なんか買って来ましょうか?」 すると、岡田は嬉しそうな表情になって、孝の肩をぼんぼん叩いた。「本当か、サンキュー緒方! じゃあウイダーのプロテインを一本頼む。釣りはいいぞ」そう言って、岡田は孝に500円硬貨を渡して、巡回に出て行った。
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小隊対小隊で戦い、先に全員を倒した方の勝ちという本格的かつ分かりやすい訓練だ。ちなみに、審判役はSSTの隊員が務める。孝たち一年生には、初めての訓練方式だった。今日は土曜日で、本来なら部活の生徒がいるが、こういう訓練がある日は午後三時まで登校禁止となっている。「集合」 斉木が指示し、小隊全員が折りたたみテーブルに置かれた校舎の見取り図を取り囲むように集まる。「説明する。すでに校舎内のあちこちに、第一小隊の隊員たちが潜んでる。おれたちは校舎とSDF棟の連絡通路から進入し、このルートで索敵(クリアリング)を実施する」
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『四班、敵の背後に回りこむ!』 イヤホンだけは緊迫した声が流れ続けた。『二階は制圧完了(オール・クリア)! 三階へ向かう』 斉木の声だった。『一班KIA一名』『二班、KIA一名』『四班KIA一名!』『二班、全滅です』『四班、教室を二から四まで制圧! 一班はどうなってる!』『一班は自分だけです! 交戦中! ……KIA。全滅』 こちらは残り二名だけ。第一小隊(あっち)は何人残っているのだろう。『四班、KIA二名。全滅……。 レッド・リーダーよりイーグル・リーダー。状況終了。状況、レッド・チーム全滅』 ……負けてしまったようだ。
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斉木が見取り図の上をペンでなぞる。「ただし、特別教室やトイレ、図書室、その他の教室以外の場所……つまりこの斜線の部分は使用禁止だ。あと、バトラーのレーザーは弾切れの心配がないが、連射ができない。そのことを頭に入れて行動しろ。クリアリングの際は、前の隊員のハンドサインを見落とすな。あとはさっきの状況説明《ブリーフィング》通りだ。……質問は?」 全員、無言だった。「よし」 斉木はインカムのスイッチを入れた。「こちらレッド・チーム。準備よし(オールグリーン)」 レッド・チームとは突入する側のコードネーム、つまり孝たち第二小隊のことで、待ち構える第一小隊はブルー・チームである。
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